◆福島キャンプラン(3)
連休最終日、ツーリング3日目の朝。空は相変わらずどんよりと曇り、天気予報は時々雨。出発前は晴れの予報だった筈だが、どこで狂ってしまったのか。最終日に磐梯吾妻スカイラインを走ることが主目的だった今回のツーリングだったが、この天気で標高1600m超の山岳コースを走るのは当然不適合。プランは完全に白紙に戻り、体調も優れない中、とりあえず走りながら今日の行先を考えることにした。
連休最終日、ツーリング3日目の朝。空は相変わらずどんよりと曇り、天気予報は時々雨。出発前は晴れの予報だった筈だが、どこで狂ってしまったのか。最終日に磐梯吾妻スカイラインを走ることが主目的だった今回のツーリングだったが、この天気で標高1600m超の山岳コースを走るのは当然不適合。プランは完全に白紙に戻り、体調も優れない中、とりあえず走りながら今日の行先を考えることにした。
2日目の朝は5時半起床。未明に降った雨は上がっていたが、空は重苦しい鉛色。公園の片隅で朝食の準備をしていると、昨夜に現地入りした仲間のひとりがやってきた。今日のルートは、会津若松から磐梯山を上り、裏磐梯から安達太良山の北面を抜けて、土湯温泉に至る本格的な山岳コース。旅には道連れが居た方が心強いが、山道が始まってしまえば結局は一人旅だ。
10月初旬の3連休、4ヶ月ぶりとなるキャンプツーリングの地に選んだのは、福島県。関東地方に比べて、一足遅く実りの季節を迎えた南東北の秋を体感すべく、鈍行列車に揺られること約4時間、栃木県最北の駅、上三依塩原駅に降り立った。上三依の北、山王峠を越えれば、そこは陸奥の玄関口。県境を列車で抜けてしまうのはつまらない。足慣らしとばかりに、緩やかな峠道を走り始めた。
長野の朝は早い。昨夜は善光寺の東に隣接する城山公園で一夜を明かし、早朝の公園に集う人々の声に促され、5時半起床。初老の散歩者たちは、憩いの場に陣取る我々を訝しがることもなく、気さくに声を掛けてくれる。予報と祈願が的中し、本日の天気は良好。7時には公園を後にして、近所のコンビニで朝食をとる。気温はぐんぐんと上昇し、早くも汗が噴出してくる。
関東甲信地方に入梅宣言が出された翌朝の11時半、輪行袋を担いだ2人は鈍行列車を乗り継ぎ、群馬県最奥の嬬恋村、万座・鹿沢口駅に降り立った。この日の天気予報は、曇りのち雨。関東平野は既に鬱々たる雨模様に包まれていたが、高原の空は薄明るく、時折小雨がパラつく程度の天候であった。今回のランは1泊2日。2日目の晴天を信じて、初日は長野市を目指す。
下総国の外れから電車を乗り継ぐこと約2時間、起点の上総一ノ宮駅に到着したのは午前7時過ぎ。下総、上総、そして安房。かつて3つの国に分かれていた房総半島は、交通機関が発達した今でも、同じ県内とは思えぬほど往来に時間がかかる。2月最後の日曜日は、雲ひとつない青空に恵まれながらも、気温はわずかに5度足らず。冷たい北風がびゅうびゅうと吹き荒れていた。
(3)道祖神峠~吾国山
3kmばかり北へ向かうと右正面に山が迫り、次なる峠である道祖神峠に至る県道へと突き当たった。八郷町と隣町の笠間市とを結ぶ主要道路で、これまでの林道とは異なり道幅も広く、標準的な勾配の上り坂が続いているが、3度目のヒルクライムとあって少々筋肉がこわばっている。
起点はJR岩間駅。朝9時過ぎ、常磐線の普通列車を降り立つと、頭上には見事なまでに冬晴れの空が広がっていた。気温計は5度前後を示しているが、青々として高い空からは燦燦と陽光が降り注ぎ、だんだんと気分が高揚してくる。新年最初のツーリングとしては、幸先の良いスタートだ。10時に出走開始。
一時間以上かけてじっくりと神社を散策した後、来た道を下る途中で遅刻してきた同行者と合流した。彼は鎌倉市の在住で、午前4時台の始発電車に案の定乗り遅れたらしい。しかし、彼が踵を返して下りかけようとしたその瞬間、こちらの自転車のスポークが折れた。おかげで彼は修理の間、神社を参拝することになった。どうやら神の見えざる手が働いたようである。
最終日の朝は7時半起床。テントの外は依然として雨が降り続いている。昨夜は台風16号の日本海通過を受けて、一晩中横殴りの暴風雨に見舞われ、フライシートが吹き飛ばされる不安と恐怖のため、なかなか寝付くことができなかった。闇と騒音、そして孤独ほど、人間の精神を不安定にさせるものはない。おそらく、絶え間ないほどの悪夢を見ていたのだろう。寒い一夜であったにもかかわらず、シュラフを幾度と無く蹴飛ばした記憶が残っている。
切明部落では中津川の2つの源流が合流する。ひとつは群馬県野反湖を水源とする魚野川、そしてもうひとつは志賀高原を水源とする雑魚川である。車一台分の幅しかない橋を渡って中津川に別れを告げると、谷の斜面をゆっくりと上ってゆき、雑魚川に沿って延びる秋山林道の入口へ。鳥甲山の裾野を回りこむように90度針路を変え、深くえぐれた谷間を真西へと進む。心配していたほど勾配はきつくないが、かといって平坦でもない。時速10km前後のペースで「漸進」する。
奥只見ダムへ通じる唯一の道、シルバーラインへの分岐を過ぎて、樹海ライン最後の峠へ向かう。上り区間約5km、高低差約300mの枝折(しおり)峠である。既に銀山平まで55kmを走って疲労困憊だったが、坂道の勾配はとてもゆるく、筋肉を休めながら余裕を持って上ることができた。道路からの眺望に優れ、ヘアピンカーブを曲がるたびに、荒沢岳や越後駒ヶ岳の猛々しい稜線が目に飛び込んでくる。著名な八海山に連なる越後山脈の名山である。標高2000m近い山頂付近には、地肌剥き出しの雪渓が見られ、そのアルプスのような山容は鮮烈だった。
2日目の朝は5時に起床。昨夜は檜枝岐村の外れ、尾瀬に向かう国道沿いにあるキリンテ地区のキャンプ場に泊まった。数軒のサイトが隣り合って並ぶが、いずれも低料金で素晴らしい自然環境が保たれている。標高1000mの高原は涼しく、空気は澄み、隣を流れる檜枝岐川のせせらぎだけが森の中に心地良く響いていた。手早く朝食を済ませると、7時には出走開始。今日の行程は東日本きっての難路、奥只見樹海ラインを抜ける県境越えのルート。人の侵入を拒むような、深山幽谷の秘境が待ち構えている。
福島県に入ると、まるで東北は未開の地とでも言わんばかりに舗装が尽きた。とはいえ、峠付近はまるで小学校の校庭のように引き締まった平らなダートで路面良好である。霧が晴れるとすっかり雨は上がっており、水の透き通った流れとごつごつとした岩場を間近に見ながら、渓流と並走するようにゆるい斜面を下ってゆく。緑のトンネルは目に優しかったが、路面には徐々に砂利の量が増えていき、激しく車体が揺れて地面から視線を離すことができない。キャリアの積荷が何度か振い落とされる。
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