◆福島キャンプラン(2)
2日目の朝は5時半起床。未明に降った雨は上がっていたが、空は重苦しい鉛色。公園の片隅で朝食の準備をしていると、昨夜に現地入りした仲間のひとりがやってきた。今日のルートは、会津若松から磐梯山を上り、裏磐梯から安達太良山の北面を抜けて、土湯温泉に至る本格的な山岳コース。旅には道連れが居た方が心強いが、山道が始まってしまえば結局は一人旅だ。
(3)磐梯山ゴールドライン
午前7時過ぎに会津市街を出発すると、街外れのバイパスから、軽い丘越えの県道に入る。何の問題もない緩い勾配だが、初日の疲れのためか脚が重い。依然としてどんよりと低空を這うような曇天のため、目前に聳え立っているはずの磐梯山は影も形も見えないが、いつしか県道は会津盆地の突き当たりへ達し、観光有料道路「ゴールドライン」のヒルクライムが始まった。
登頂開始は午前9時。上り区間は約12km、標高差は700m、平均勾配は6%ほど。フル装備仕様のバイクと言えど、小一時間あれば十分に上り切れるコースだと頭では判断できるが、身体は思うように言うことを聞いてくれない。早々に仲間の先行を許すと、筋肉の強張りをほぐすように、ゆっくりと着実にペダルを踏んでいく。少しでも下界の景色が望めるならば、脚を休めて記念撮影。
ぼんやりとした薄明かりに照らされた猪苗代湖を尻目に上り続けると、標高1000m付近からようやく磐梯山の頂が姿を現し始めた。南側斜面からはその特徴的な爆裂火口を望むことはできないが、噴煙のように山肌を泳ぐ霧雲と、薄らと染まり始めた紅葉が、威風堂々たる名山に彩りを添えている。願わくばスカッと晴れ渡った秋空の下を走りたかったが、憂いを帯びた表情も悪くない。

起点からのキロポストが2ケタとなり、頂上まで残り僅かの期待に胸を躍らせる道程こそが最も苦しいところ。最後の気力を振り絞って、ゴールドライン頂上、標高1200mの猫魔八方台に到達すると、時刻はちょうど最低目標ラインに設定していた10時半を回ったところだった。相当なスローペースだが、かといって疲労が軽減されるわけでもない。脚力の衰えが恨めしい。
頂上の駐車場は登山客らのマイカーで大盛況だが、我々サイクリストは道路を踏破すればそれで満足、手早く防寒具に身を包んで北側斜面を下り始める。「裏磐梯」は紅葉の進行具合が早いようで、道路沿いには真紅に染まった落葉樹がちらほら、一足早く晩秋の雰囲気を漂わせていた。南側斜面の半分ほどの距離で坂道を下り終えると、そこは桧原湖畔。
(4)磐梯吾妻レークライン
大勢のドライブ客で賑わう裏磐梯エリアを足早に抜けると、国道沿いのコンビニにて昼食を済ませ、正午に再出発。次なるヒルクライムの舞台となる道は、こちらも観光有料道路の「レークライン」。普通自動車は930円という高額の通行料金が祟って、連休中にも関わらず交通量は少ない。一方で、自転車の通行料金はわずか90円。サイクリストにとっては楽園のような道だ。
ヒルクライムとは言っても、標高差は200m足らず。勾配も非常に緩く、ゴールドラインに比べれば大した難易度では無い。「レークライン」の名の通り、道中のそこかしこで裏磐梯の湖を眼下に納めることができる。もっとも、沿道に位置する小野川湖と秋元湖は、いずれも溶岩によって川が堰き止められた天然のダム湖なので、さほど風光明媚というわけではないのだが。
中津川渓谷を渡る橋を経て、秋元湖畔のちっぽけな集落からもう一山越えると、細々とした山道は大型トラックが行き交う大幹線道路に合流する。通称・土湯道路。福島市街から磐梯、猪苗代のスキーリゾートを結ぶために開削された、通年通行可能な物流道路である。時刻はまだ13時を回ったばかりだというのに、雲行きは悪くなる一方で、夕方のように暗い。

(5)土湯道路(R115)
ここまで既に60km近くを走り、本日の行程はほぼ終了。あとは土湯峠を越えて、一目散に山道を下るのみ。最後の上りは小雨交じりで高揚感に乏しく、高い標高にも関わらず視界も悪かったが、この日のハイライトとなる光景は下り途中に待っていた。土湯トンネルの先、旧道との交差点を過ぎて新道を進むと、視線の先には樹海を貫く道路が大蛇のように横たわって延びていた。
相変わらず低く地を這う曇天のため、大パノラマとまではいかないものの、谷の向こうには山々が連なり、スケールの大きさを感じさせる光景の下、自転車の尺度からすればありえないほどの彼方に進むべき道路が見えている。つまりは、ちっぽけな我々の姿を前もって俯瞰しているようなものだ。「地形を征服する悦び」を味わってぞくぞくとするような感覚。その大いに肉感的な快楽がわかるだろうか。
脳内で先程の光景を堪能しつつ、樹海を豪快にスラロームしてゆく新道を下ると、「道の駅つちゆ」にて小休止。身を突き刺すような東北の冷風から逃れるように温かい食べ物を頬張る。目的地の土湯温泉はもうすぐそこだ。日没時刻までたっぷりと余裕をもったまま、予定していた行程を消化することができた。ツーリングにおいては、目的地に到着する直前こそが最も幸福な瞬間かもしれない。

(C)土湯温泉
福島県福島市、吾妻連峰と安達太良山に抱かれた山懐に、大規模旅館の密集する土湯温泉はある。温泉街の中央を流れる川ではところどころに湯気が上がり、街中には源泉かけ流しの足湯が点在するなど、宿泊客ならずとも温泉の雰囲気を楽しめる賑やかな街並みが広がっている。土産物屋で200円の入浴券を購入すると、我々もさっそく共同浴場に入ってみた。
最低限の設備しかない「中の湯」には、まず観光客の姿は見られない。地元の人たちが親しむ湯舟は50℃を超える源泉の湯が波々と注がれ、一見の客には辛い熱さだったが、山道で冷えた身体を暖めるには十分過ぎるほどの温浴効果。入浴後はここで野宿をするつもりだったが、今にも雨が降り出しそうな空模様と寒さに気後れして、残り20kmの山道を下って、麓の福島市街まで足を延ばすことにした。
こうして2日目の宿泊地は、当初の予定には全く入っていなかった県都となった。確かに人口30万の拠点都市は便利で、寂しい野宿の夜には頼もしいことは確かだが、人が集まりすぎる場所というのも旅人にとっては居心地が悪いものだ。駅前公園での宿営は大失敗で、夜通し騒ぎ続ける若者とテントを打ち続ける雨音に苛まれ、ほとんど眠ることができなかった。
走行データ
第2日:会津若松-磐梯-北塩原-猪苗代-福島
D:94.3km/1700up
T:5h49m00s
A:16.2km/h
(つづく)




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